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日本では、2016年4月より電力小売の全面自由化が開始となりました。これは、先進各国から見ると遅めのスタートです。アメリカでは1992年に、イギリスでは1999年に電力小売自由化が開始されています。

日本より先に電力自由化がスタートした国々では、すでに電力自由化によるさまざまな影響が起こっています。実際には、日本と諸外国では電力供給環境や国土の広さが異なるため、一概に比べることはできません。ただ、海外の実例を教訓とすることによって、電力自由化によるさまざまな悪影響を防ぐことができます。

そこで、ここでは海外での電力自由化による影響のうち、アメリカやイギリス、ドイツの実例を解説していきます。

アメリカの電力自由化は州ごとに行われている

日本では、電力自由化による電力会社選択の自由は、全国で一斉にスタートしています。実際には、2016年4月において新電力会社が参入していない地域があるため、電力自由化スタートと同時に国民全員が自由に会社を選べるようになったわけではありません。ただ、このような地域でも、電力会社が参入することによって契約先を選択することができるようになります。

一方で、アメリカの電力自由化は州単位で行われています。1992年における電力卸売市場の開放後、北東部の州やカリフォルニア州は積極的に電力自由化を進めていました。これらの州では電力消費量と電気料金が高かったため、電力自由化によってコストを下げようとしたのです。

また、テキサス州では、新規電力会社への切り替え率が100%というデータがあります。これは、かつてテキサス州には大手エネルギー会社の「エンロン」があり、テキサス出身のブッシュ元大統領が電力自由化を推し進めたためといわれています。

一方で、2014年12月において、電力自由化を実施している州は13州のみとなっています。残り37州は電力自由化が行われておらず、電力業界は電力自由化以前の日本と似た仕組みになっています。

このように、アメリカの電力事情は州によって大きく異なります。そのため、州をまたいで引越をすると、電力の契約が面倒であったり電気料金が大きく変動したりということが起こりやすいです。

電力自由化によってアメリカにはどのようなことが起こった?

前述のように、電力自由化は電気料金の低下などを目的に進められました。ただ実際には、電力自由化されている州は非自由化の州に比べて電気料金が高くなっている傾向にあります。

このような電気料金高騰原因の1つが、電気料金規制の撤廃です。電力自由化以前に国が管理していた電気料金は、電力自由化によって電力会社が自由に設定できるようになりました。これによって、発電所設立などのコストを電気料金に上乗せしたり不当に電気料金を釣り上げたりする電力会社が増加し、電気料金が上がったといわれています。

また、電力自由化によって停電などのトラブルが起こった例もあります。1998年に電力の小売が自由化されたカリフォルニア州では、2000年~2001年代に大規模な停電が発生しています。

当時のカリフォルニア州における電力自由化では、発電事業と電気の小売事業を分離していました。そして、消費者が不当な損をしないために、電気の小売価格(消費者が電気を買う価格)には上限が設けられていました。

ただ、2000年夏頃に、発電コストの高騰や猛暑などの理由によって電気の卸売価格が急上昇しました。つまり、発電するために必要なコストが上がったのです。

このような状況下でも、電気の小売価格には上限があるため、電力小売会社が電気を高く売ることができませんでした。このようなことが続くと、電力小売会社の利益がどんどん低下するため経営が困難になります。

電力小売会社の倒産により、停電が起こる

実際に、このようにして多くの電力小売会社は経営難に陥り、いくつかの会社が倒産しました。そして、電力小売会社はコスト増によって電気を買うお金がなくなり、電力を消費者に販売することができなくなりました。これによって、カリフォルニア州では大規模な停電が起こったのです。

さらに、2003年には送配電管理システムの故障によってアメリカ北東部やカナダ一部が大停電を起こしました。

このようにアメリカでは、電力自由化によって停電や電気料金の高騰などが起こっています。前述のように、日本とアメリカではさまざまな条件が異なります。ただ、同じようなことが日本で起こる可能性もゼロではありません。

特に、消費者自身が受け身でいると、このような電力自由化による不利益を受けやすくなります。そのため、電力自由化で損をしないために、これまでに述べたような知識を踏まえて動向を観察し、賢く行動することが大切です。

イギリスの電力業界

一方でイギリスではどうなのでしょうか。電力自由化が行われるまで、日本の一般消費者は特定の電力会社としか契約できませんでした。これと同様に、電力自由化以前のイギリスでは、国民全員が国営の電力会社と契約していました。

その後、イギリスの電力自由化は1990年から段階的に進められ、1999年には一般消費者が電力会社を自由に選ぶことができるようになりました。これによって、多くの会社が電力業界に参入しました。

ただ、現在では、電力自由化当初に参入した会社の多くが淘汰されて大手電力会社に吸収されています。そして、多くの会社を吸収した大手電力6社が、イギリスにおける電力供給の90%以上を占めています。これは、電力市場に発展性がないことが原因といわれています。

というのも、途上国の電力使用量は、家電などの普及によって年々上昇しています。これに対して先進国であるイギリスでは、すでに家電が普及しているため、電力使用量が頭打ち状態となっています。つまり、電力業界は企業同士で限られた顧客を奪い合う状況にあるため、業者が新規に参入するにはリスクが高いのです。

さらに、もともと国有だった大手電力会社は、火力や原子力による大規模な発電所を所有しています。これに対して、新規に参入した電力会社は、風力などによる小規模な発電所しか所有していないケースがほとんどでした。そのため、新電力会社は大手電力会社に太刀打ちできず、最終的には撤退や吸収に追い込まれていきました。

電力自由化による電気料金変化の推移

電力自由化当初のイギリスは、発電した電力すべてをいったん卸売市場に集約していました。そして、それを小売会社が購入して、消費者へ電力を販売していました。このような仕組みを「強制プール制」といいます。

強制プール制は、電力供給力が低い会社でも大手電力会社と競い合えるように導入された制度です。

ただ実際には、この制度によって「発電量が多い電力会社」が容易に市場操作を行うことができるようになったため、大手電力会社が有利な状況となりました。つまり、大手企業が電気の価格を調整できたということになります。

日本と同様に、イギリスの電力自由化は電気料金の下落を目的に実施されました。ただ、電力自由化当初は、強制プール制を利用して大手企業が電気料金の調整を行ったため、企業間の競争が起こらず電気料金は下がりませんでした。

強制プール制の廃止による電気価格の下落

このような状況を改善するため、強制プール制は2002年に廃止となりました。これが企業参入の起爆剤となり、価格競争が起こって電気料金が大幅に下落しました。

ただ、イギリスにおける2016年の電気料金は、2004年における2倍の水準まで上昇しています。これは、発電に必要な天然ガスなどの燃料費が高騰したことが主な原因です。イギリスでは、燃料のほとんどを輸入に頼っているため、電気料金が海外情勢によって変動するのです。

さらに、イギリスにおける電気料金の内訳のうち、燃料費の割合が高くなっています。つまり、イギリスでは企業努力が電気料金に反映されにくいということです。そのため、多くの企業が電力業界に参入しても、電気料金の大幅な低下が起こりづらいのです。実際に、前述の大手6社における電気料金に大きな差はなく、各社はサービス内容で差別化を図っています。

このような現状から、今後イギリスの電気料金が下がる見込みは低いといえます。そのため、今後大きな改革が行われない限り、電気料金の上昇は止まらないと予測されています。

このような電気料金高騰は、電力自由化が直接的な原因ではありません。ただ、電力自由化によって、国が電気料金を直接的に管理しなくなったことが電気料金高騰における原因の1つとされています。

日本の電力自由化では、このような海外の事例を参考に制度設計が行われています。そのため、たとえ燃料費が高騰しても、イギリスと同じような電気料金の上昇が起こるとはいえません。

ただ、電力自由化には、これまでに述べたような「電気料金が上昇するリスク」があることを消費者自身が理解することが大切です。そうすることによって、冷静な判断が行えるようになり、損やリスクを最大限回避することができます。

ドイツ電力自由化の歴史

次にドイツの事例を確認していきます。ドイツの電力自由化は、1998年に実施されています。市場の開放によって多数の企業が電力業界に参入したため、価格競争が起こって電気料金が電力自由化以前の3割ほど安くなりました。

電力自由化以降、電力の販売と送配電はそれぞれ別の会社が行うこととなりました。そのため、いまでは電力の小売会社は、送配電網を持つ事業者に「託送料金(送配電網の利用料金)」を支払って消費者に電気を届けています。

ただ、電力自由化当初のドイツには託送料金の規制がなかったため、送配電網を独占していた事業者は託送料金を高額に設定していました。このような状況では、資金力の少ない会社が不利といえます。そのため、電力自由化によって電力業界に参入した新電力会社は、資金や顧客数が少ないため倒産や撤退に追い込まれていきました。

一方で、大手電力会社は顧客を囲い込むために、他社と合併や業務提携などを行っていきました。これによって、電力の小売は大手電力会社がほぼ独占した状態となり、価格競争が行われなくなって電気料金が上昇し始めました。

このように業界が独占されると、企業同士による競争がないため価格やサービスの適正化が行われません。そのため、ドイツ政府は、このような状況を改善するために制度改革を行いました。具体的には、託送料金を国の管理下において値下げしたり、消費者が電力会社を変更する際における変更手数料の徴収を禁止したりしました。

このような国の施策により、電力会社を変更する消費者が増加して再び企業同士の競争が始まりました。これによって電力業界が活性化し、環境に優しく、当時コストが安かった再生可能エネルギーによる電力を供給する会社が増えました。

ただ、近年では、燃料価格の上昇や再生可能エネルギー買取コストの増大などによって電気料金が再度高騰しています。これによって、ドイツの電気料金はEU諸国の中でもっとも高い水準となっています。

ドイツの消費者は電力会社切り替えに消極的

前述のように、電力自由化や国によるさまざまな施策によって、多くの企業が電力業界に参入しています。2016年におけるドイツでは、電力会社が1000を超える数まで増加しており、消費者が選択できる電気料金プランは1万種類以上になっています。

さらに、電気料金の比較サイトも多数乱立しており、その多くが中立性に欠けたものとなっています。このような比較サイトでは、特定の電力会社との契約を促して高額な報酬を得ています。つまり、消費者が「電力会社の切り替えに関する有益で正確な情報」を得ることが困難になっているのです。

また、ドイツには、電気料金を前払いしたり預り金を支払ったりすることで、安い電気料金で契約できる新電力会社が多くあります。ただ、過去にこのような料金プランを提示した会社が倒産したケースがあります。つまり、新電力会社にお金を払ったのにサービスを受けられなかった消費者が多数いるのです。

市場の活性化にならず、電力自由化に失敗する

このようなことから、ドイツには電力会社の切り替えに消極的な消費者が多いといわれています。

消費者が電力会社の変更を積極的に行わないと、市場は活性化せずに価格やサービスは適正化されません。電気料金やサービスの適正化は、電力自由化の主な目的です。そのため、これらが適正化しづらいドイツの現状は、電力自由化の失敗例といわれています。

日本では、このようなドイツの事例を踏まえて国がさまざまな規制を行っています。そのため、これまでに述べたようなことが日本でも起こるとはいえません。

ただ、日本人はもともと、環境や状況を変えることに消極的な傾向があります。ドイツにおける例のように、消費者が電力会社の変更に消極的だと、電力自由化は失敗して電気料金やサービスが悪化しやすくなります。そのため、電力自由化による不利益を被らないためには、海外の実例を参考にして賢く判断することが大切です。