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日本では、全国各地で電気を使うことができます。また、日本における年間あたりの停電時間は、世界最短の水準となっています。このような安定した電力供給は、さまざまなエネルギー源で発電することによって支えられています。

というのも、それぞれの発電方法には、良い点と悪い点の双方が存在しています。例えば、火力発電には、出力の調整を容易に行うことができ、大量の発電量が得られるというメリットがあります。一方で、燃料量が限られていたり、発電に温室効果ガスの排出を伴ったりするなどのデメリットもあります。

また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用した発電では、半永久的にエネルギー源を調達できる上に、発電所の稼動による温室効果ガスの排出を伴いません。ただ、発電量が天候に左右されたり出力調整が困難だったりします。

このように、発電方法にはそれぞれの特徴があります。そのため、日本では、これらのデメリットを相殺して安定した電力を供給するために、さまざまなエネルギーによって発電を行っています。

そして、このような発電方法の1つである原子力発電にも、「大量の発電が可能で、かつ利用可能な資源量が豊富である」というメリットがあります。一方で、生物に危害を及ぼす「放射線」を放出する廃棄物が発生するというデメリットもあります。

そのため、日本政府は、このようなデメリットを軽減するために、「核燃料サイクル」政策を行ってきました。核燃料サイクルは、核燃料のゴミを再利用するという政策です。これがうまくいくと、ゴミの削減や安定した燃料確保などが期待できます。ただ、実現には多くの課題があり、さまざまな危険性を伴います。

そこで、ここでは核燃料サイクルについて解説していきます。

核燃料サイクルとは

核燃料サイクルとは、「核燃料」を「リサイクル」して有効活用することをいいます。通常、石炭や薪などの燃料を燃やして生じた灰を、再び燃料として利用することはできません。

これに対して核燃料は、高度な技術を駆使することによって再び燃焼が可能な状態となります。そこで、まずは「核燃料が燃える仕組み」について述べていきます。

原子力発電の仕組み

原子力発電では、ウランなどの「核燃料」を燃やして電気を得ます。厳密にいうと、このような燃料は石炭や石油などのように、火をあげて燃焼するわけではありません。核燃料は、原子が分裂することによって熱エネルギーを生じさせます。

原子とは、すべての物質を構成している粒子のことです。そして、原子の中心には、「原子核」が存在しています。

原子核は、「中性子」と「陽子」で構成されています。このうち、中性子が一定の条件下で燃料となる原子の原子核に当たると、この原子が2つの異なる原子に分裂します。このとき、大量の熱やいくつかの中性子、放射線などが放出されます。

そして、飛び出た中性子が他の核燃料原子に当たると核分裂が生じ、このような反応が連鎖的に起こり始めます。原子力発電の原子炉では、このような核分裂反応の連鎖を人為的に起こして大量の熱を継続的に得ています。

このようにして発生した熱は、水を熱して水蒸気を作ります。そして、水蒸気がタービンを回すことによって発電が行われます。

これと同様に、火力発電所では、燃料を燃やして得た熱で水蒸気を作ることによって発電しています。このようなことから、原子力を発電に利用するための一連の反応は、便宜上の理由から「核燃料を燃やす」と表現されます。

核燃料サイクル=核ゴミのリサイクル

前述のようにして核燃料を燃やすと、火力を利用したときの「灰」に相当する物質である「核のゴミ」が発生します。これは「使用済み核燃料」と呼ばれ、このままの状態では使い道がありません。また、このようなゴミは放射線を放出するため、処理のためには安定した土地や住民の理解、多額の費用などが必要となります。

このようなことから、これらのゴミにおける有効活用方法が世界各国で模索されてきました。そのような中、有効手段として挙げられるのが、使用済み核燃料の「再利用」です。そして、このような再利用を日本でも実現することを目的に、2005年から核燃料サイクル政策が開始となりました。

核燃料の再利用方法

前述のように、原子力発電は原子が分裂することによって発生したエネルギーを利用して発電します。ただ、すべての原子で分裂反応が起こるわけではありません。原子力を取り出すためには、ウランなどの核分裂しやすい物質を利用する必要があります。

そして、ウランの中にも「分裂しやすい原子」と「分裂しにくい原子」があります。例えば、143個の中性子を持つ「ウラン235」は、核分裂を起こしやすいウランです。これに対して、中性子の数が146個である「ウラン238」は、核分裂を起こしにくいという特徴があります。

そのため、原子力を発電に利用するためには、原子炉でウラン235を燃やす必要があります。ただ、天然ウランに含まれるウランのほとんどはウラン238です。このようなことから、原子力発電では、天然ウランを加工して「濃縮ウラン」を作り、燃料としています。

濃縮ウランとは、ウラン235の比率が高くウラン238の比率が低いウランのことをいいます。これに対して、ウラン235の比率が低くなってウラン238の割合が高くなったものを「劣化ウラン」と呼びます。

前述のように、濃縮ウラン内のウラン235は、原子炉で燃焼すると異なる2つの原子に分裂するため数が減少します。そのため、燃焼したあとの燃料には、多くのウラン238が残ります。

前述のように、ウラン238は核分裂を起こしにくいため、このままでは燃料として利用できません。ただ、ウラン238は、中性子が高速でぶつかると「プルトニウム239」に変化するという特性があります。

そして、プルトニウム239は、ウラン235と同様に核分裂を起こしやすい原子です。そのため、このような反応を起こしてプルトニウムを作ると、使用済み核燃料を再び燃料として利用できるようになります。

このような、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜて加工された燃料のことを「MOX燃料(モックスねんりょう)」といいます。MOXとは「Mixed OXide」の略であり、「混合された酸化物」という意味です。MOX燃料は、プルトニウムとウランが酸化された状態で混ぜられているため、このような名前が付けられています。

このようにして燃料の再利用を行うと、従来では燃料に出来なかった使用済み核燃料も再び燃料となるため、原子力発電に利用できる資源の量が増えます。さらに、使用済み核燃料から再利用できる放射性物質を抽出するため、発電によって発生する放射性廃棄物の量を減らすことができます。これらはどちらも、原子力発電のデメリットを軽減するものです。

このように、原子力発電におけるデメリットを減らすために、核燃料サイクル政策では、核燃料リサイクルのためにさまざまな手段を講じています。そして、政策の代表的なうちの1つが、「高速増殖炉の実用化」です。

高速増殖炉とは

前述のように、原子力エネルギーは原子核に中性子がぶつかって分裂することによって発生します。そして、分裂した原子核から生じる中性子によって核分裂の連鎖反応が起こります。

ただ、分裂反応の際に発生する中性子は、高速で原子核から飛び出します。そして、中性子の速度が速いと、燃料内におけるウラン235の核分裂が起きづらくなります。そのため、通常の原子炉では、核分裂の連鎖を起きやすくするために「減速材」を使用します。

減速材には、核分裂の際に飛び出す中性子の速度を弱める働きがあります。日本の一般的な原子炉では、減速材に普通の水を採用しています。そのため、原子炉内の燃料は大量の水に浸かっています。また、このような水は、燃料が核分裂によって発生した熱を受け取り、水蒸気を作ってタービンを回す「冷却材」の役割も担っています。

一方で、高速増殖炉では、燃料に天然のウランやMOX燃料を使用します。前述のように、MOX燃料は、主成分が使用済み燃料内に含まれるウランとプルトニウムです。そして、使用済み核燃料には多くのウラン238が含まれています。つまり、MOX燃料には多くのウラン238が含まれているということになります。

前述のように、ウラン238は高速で中性子が当たるとプルトニウム239に変化します。そして、プルトニウム239は核分裂を起こしやすいため、原子力発電の燃料となります。

このようなことから、MOX燃料を利用する高速増殖炉では、中性子の速度を弱めずに高速のまま利用するため、減速材が不要です。なお、高速増殖炉の「高速」は、このように速度の速い中性子を利用することから名付けられています。

そして、高速増殖炉内には、燃料の周りに劣化ウランが配置されています。そのため、この原子炉で燃料を燃やすと、通常の原子炉で利用できないウランが高速増殖炉の燃料となります。つまり、高速増殖炉を稼動させるほどに燃料が増えていくということです。

前述のように、一般的な原子炉では、水が減速材と冷却材の役割を担っています。これに対して、高速増殖炉では、速度の速い中性子を利用する必要があるため、中性子の速度を落とす働きのある水を冷却材として利用することができません。そのためこの方式では、中性子の速度を落としにくい性質のあるナトリウムや鉛など液体の金属を冷却材としています。

具体的には、まずこれらの金属が燃料から熱を受け取ります。そして、熱を持ったナトリウムはパイプを介して水に熱を移します。このようにして加熱された水は、蒸気となってタービンを回し、発電を行います。

このような液体金属は、熱が伝わりやすいという特長がある一方で、水よりも扱いが困難です。というのも、金属ナトリウムは水や酸素に触れると爆発を起こします。そして、前述のように、高速増殖炉では、金属ナトリウムと水はパイプの壁を挟んで隣り合わせに存在しています。そのため、このようなパイプに少しでも穴が開くと、原子炉が爆発を起こします。

また、鉛は金属ナトリウムのような発火性がない一方で、触れたものを腐りやすくする性質があります。そのため、鉛を溜める容器やパイプなどの素材を工夫する必要があり、メンテナンスが困難です。

さらに、水は透明であるのに対して、これらの金属は不透明です。そのため、原子炉内が液体金属で満たされると内部の確認が困難になります。

また、高速増殖炉を稼動すると、純度の高いプルトニウムが大量に発生するという問題もあります。というのも、このようなプルトニウムは、核兵器の材料です。そのため、高速増殖炉を稼動してたくさんのプルトニウムを保有すると、「いつでも核兵器を作れる状態」になります。

このようなことから、世界的に高速増殖炉の実用化が難航しており、研究をやめている国も少なくありません。また日本でも、2011年の原発事故によって、高速増殖炉を含めた原子力発電への反発が高まっているため、計画の停止状態が続いています。

プルサーマルとは

日本では、高速増殖炉の稼動を核燃料サイクル政策の柱としてきました。ただ、前述のように、高速増殖炉にはさまざまな課題があり、実用化は困難なのが現実です。そのため、各地域電力会社は、高速増殖炉の代わりに「プルサーマル発電」の導入を進めています。

プルサーマル発電とは、高速増殖炉の主な燃料であるMOX燃料を、一般的な原子炉で燃やすことをいいます。このような発電を行うと、使用済み核燃料を再利用することができるため、ゴミを減らすことができます。

ただ、通常の原子炉でMOX燃料を燃やして核燃料の再利用を続けると、核燃料として利用できない原子が増えてきます。高速増殖炉では、これらの物質を分裂させることができますが、通常の再処理では取り出すことができません。

そして、このような物質は、中性子を吸収しても分裂せず、新たに中性子を放出することもありません。そのため、MOX燃料の再利用を続けると、核分裂の連鎖反応が起きづらくなります。つまり、燃焼可能なプルトニウムやウランを含んでいても燃料として利用できなくなるため、プルサーマルではウラン資源を最大限有効活用することができないということです

また、MOX燃料を燃やして生じる使用済み核燃料は、通常の燃料によって発生するものよりも強い放射線を長期間放出します。そのため、プルサーマルによって発生する核のゴミは、通常よりも処理が難しいものとなります。

さらに、日本にはMOX燃料の需要分を補うだけの処理工場がありません。そのため、このような燃料は、フランスなどの海外に使用済み核燃料を委託し、加工されたものを輸入することによって調達しています。

ただ、前述のように、これらの燃料にはプルトニウムが多く含まれています。そのため、燃料輸送には核兵器の製造を目的とするテロリストに狙われるというリスクを伴います。このようなことから、MOX燃料を輸入するためには、安全確保のためのコストがかかってしまいます。

以上の点から、プルサーマルの実施にはさまざまなデメリットやリスクが発生します。ただ、日本の使用済み核燃料のうち、一部は海外の工場でMOX燃料となっています。

そして、「核を持たない」と憲法で宣言している日本は、核兵器の材料であるプルトニウムを余剰に保有しておくことができません。そのため、高速増殖炉の実現がされないうちは、プルトニウム処理のためにプルサーマルを実施する必要があります。

また、高速増殖炉やプルサーマルなどを稼動しないと、通常の原子炉で発生する使用済み核燃料の再利用が行なえません。このような使用済み核燃料は、再利用することを前提に、各電力会社が「資産」として計上しています。

このような中、プルサーマルなど核燃料の再利用を行わないことになると、これら資源は「ゴミ」になります。すると、電力会社の資産が減るため、見かけの経営状況が悪化します。このようなことから、さまざまな問題を抱えているにもかかわらず、プルサーマル発電をやめることが困難な状況となっています。

原子力発電の未来

2016年の電力自由化によって、一般消費者が自由に電力会社を選べるようになりました。これによって、電力会社の選択をすることで価値観にあった発電方法を支持することができるようなりました。

そして、これまでに述べたように、核燃料サイクルは「原子力発電によって発生するゴミの有効活用」です。ただ一方で、技術的な課題や新たに発生するリスクなども存在しています。

そのため、電気を使う全ての人が、核燃料サイクルや原子力による発電などについて冷静に考える必要があります。そして、消費者一人ひとりが真剣に発電方法を選ぶことによって、日本のエネルギー問題が解決に向かっていくはずです。