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2011年に福島第一原発事故によって、国民の多くが原子力発電の危険性を認識するようになりました。それまでは、日本の原発は安全に特化した設計となっており、重大な事故は起こらないとされていました。

このような「重大事故」とは、原子力発電所から「放射能」が漏れることを指します。というのも、原子炉で使用される燃料は、原子爆弾に比べて濃度がかなり低くなっています。そのため、原子力発電所では、燃料のエネルギー不足によって原子爆発は起こらないとされています。

実際に、国際的に最悪の原発事故と評価されている「チェルノブイリ原発事故」や「福島第一原発事故」などでは、原子爆発が起こりませんでした。ただ、これらの事故では、周辺地域に大量の放射性物質が撒き散らされました。そして、このような放射性物質は、周辺地域や動植物などに強い悪影響を与えます。

そこで、ここでは原子力発電所の危険性と放射能の影響について述べていきます。

原子力発電の仕組み

火力発電や水力発電などは、それぞれ火の力や水の力を利用して発電を行っています。これと同様に、原子力発電は「原子の力」で電気を作っています。

原子とは、物質を構成している粒子のことをいいます。例えば、人間の身体や鉱石、海など、世の中に存在しているすべてのものは、原子が集まった状態で形成されています。そして、このような原子にはさまざまな種類があり、それぞれ性質や質量などが異なります。

原子は、「原子核」と「電子」で構成されています。「原子核」は原子の中心部分に存在しており、これを軸として「電子」が飛び回っています。電子は、マイナス電気の性質を持つ粒子です。

また、原子核は、電気的性質を持たない粒子である「中性子」とプラス電気の性質を持つ「陽子」で形成されています。通常の状態における原子では、電子と陽子の数は同じです。そして、これらの数によって原子の種類が決まります。例えば、原子力発電の燃料として使われるウランは、92個の陽子と電子を持っている原子です。

これに対して、中性子の数は一定ではありません。さらに、同じ種類の原子であっても、中性子の数が異なると性質に差があります。例えば、ウランには、所持する中性子が143個である「ウラン235」と146個である「ウラン238」があります。そして、これらのうち、エネルギーを取り出しやすいのは「ウラン235」です。そのため、一般的な原子炉では、ウラン235が燃料として使用されます。

このようなウラン235の原子核に一定の条件で中性子をぶつけると、核分裂が起こります。すると、異なる2つの原子といくつかの中性子、大量の熱などを生成します。そして、このような中性子がまたウラン235に当たると、核分裂が起こって熱が放出されます。

一般的な原子力発電は、このような核分裂の連鎖を起こして継続的に熱を得ることによって発電を行っています。つまり、発電に使われている「原子力」とは、原子が分裂するときに発生するエネルギーのことをいいます。

このように、原子力発電では、少量の燃料で大量の熱を得ることできます。ただ、このとき、熱だけではなく大量の「放射線」や「放射能」を保有した物質などを放出します。そして、これが「原子力発電が危険である」といわれている主な理由です。

放射能とは

一般的に、「放射能」は人体に悪影響を及ぼすものだと捉えられることが多いです。ただ、実際には、人体などの生物に害を与えるのは「放射線」です。そして、放射能は「放射線を放出する能力」のことを指します。

放射線とは

放射線は、目に見えない強いエネルギーの流れです。放射線には、物質的な粒子で構成される「粒子放射線」と「電磁放射線」の2種類があります。

前述のように、世の中のすべての物質はたくさんの原子で形成されており、原子は中性子や陽子、電子などで構成されています。

粒子放射線とは、このような電子や中性子などの粒子が、強いエネルギーを持って高速で飛んでいる状態のことをいいます。これを身近なもので例えると、銃から飛び出した目に見えないほど小さな銃弾のようなものになります。

これに対して電磁放射線は、波長が短い強力な電磁波です。前述の粒子は、かなり少ないながらも「重さ」があります。一方で、電磁波は重さを持たない「波」です。そして、電磁放射線とは、電磁波における波の凹凸が細かく、間隔が狭い状態のものを指します。

これらの放射線は、ぶつかった物質にエネルギーを与えたり、性質を変えたりするような力を持っています。そして、このような力が強い放射線を「電離放射線」と呼びます。一方で、ぶつかった相手に対する影響が少ないものを「非電離放射線」と呼びます。

非電離放射線には、テレビやラジオ、携帯電話などで利用されている「電波」や、目に見えている「光」などがあります。これらは日常的に人間の周りに存在しているものであり、通常は人体に強い影響を与えません。

これに対して、電離放射線は、ぶつかったものを壊して不安定な状態にします。このような状態になった物質は、性質が変化したり他の物質を壊したりします。そのため、電離放射線は、非電離放射線に比べて周りに与える影響が強いです。

特に、人体や動植物などの生物が電離放射線を浴びると、細胞などの生命維持に関わる重要な組織がダメージを受けます。そのため、強い電離放射線を浴びたり、長期間において電離放射線の影響を受けたりすると、さまざまな症状やガンなどが発生することがあります。

また、電離放射線にはいくつかの種類があり、それぞれ性質が異なります。例えば、二個ずつの陽子と中性子で構成される「アルファ線」は、粒が大きいため紙1枚で遮蔽することができます。

そのため、人体が外側からアルファ線を受けても、服や皮膚などに遮られるためほとんど影響がありません。一方で、アルファ線は強い電離作用を持っています。そのため、人体が内側からα線を浴びると、強いダメージを受けてさまざまな症状が引き起こされます。

また、電離放射線の1つである「ガンマ線」は、アルファ線に比べて電離作用が弱いです。ただ、この放射線は物質を通り抜けやすく、遮蔽するためには10cmの鉛板などが必要です。そのため、ガンマ線を外から浴びると、皮膚を通り抜けて身体の内側へと影響を与えます。

このように、電離放射線には、人体に悪影響を及ぼす強い力があります。一方で、このような放射線は、身近なところに存在しています。例えば、病院でのレントゲンは、放射線の「物質を通り抜ける力」利用して、人体の内部を撮影します。また、放射線の持つ強い力を利用して、ガンの治療や殺菌、消毒などのために活用されることもあります。さらに、地球上には宇宙からの電磁放射線が常に降り注いでいます。

そして、このような電離放射線は、一般的に「放射線」と呼ばれています。つまり、一般的に「人体に毒でしかない」と思われがちな放射線は、上記のように有効活用されることがあるということです。

ただ、レントゲンなどに使用されている電離放射線も、長期間浴びると健康被害が発生します。そのため、電離放射線を利用する職場などに属する人は、定期的に健康診断を受ける義務があります。そして、年間で一定以上の電離放射線を浴びると、その職場では働くことができなくなります。

放射性物質

前述のように放射線は、粒子や波などにおける高いエネルギーを持った流れのことをいいます。そして、このような放射線を出す物質を「放射性物質」と呼びます。そのため、放射性物質は、「放射能」を持つ物質であると言い換えることができます。

放射性物質とは、「不安定な状態になっているため、放射線を出して安定しようとしている原子」のことをいいます。具体的には、電子や陽子、中性子、エネルギー量などのバランスが悪い状態の原子です。そのため、このような物質は、余計な電子や中性子、エネルギーなどを放出して安定した状態になろうとします。

そして、このようにして飛び出た粒子やエネルギーなどが放射線です。つまり、放射性物質は、自身が安定した状態になるために放射線を出しているということです。そのため、放射性物質が「余計なもの」を出し終えて安定すると、放射線が放出されなくなります。

このようにして放射性物質が放射線を出して安定していくと、不安定な原子がなくなっていくため、放射性物質が減っていきます。そして、放射性物質が最初の半分になるまでの期間を「半減期」といいます。

このような半減期が長い放射性物質は、放射線を少しずつ出してゆっくりと減っていきます。これに対して半減期が短いものは、安定するまでのスピードが早いため、その分だけ一度にたくさんの放射線を出すことになります。

原子力発電と放射能

前述のように、原子力発電を行うためには、核分裂の連鎖を起こして発電のための熱を継続的に発生させる必要があります。このような連鎖反応は、核分裂の際に飛び出る中性子によって生じます。

ただ、すべての原子でこのような反応が起こるわけではありません。そのため、原子炉では、上記のような分裂反応が起こりやすい放射性物質が燃料として使用されます。つまり、原子力発電におけるエネルギーの源は、人体に悪影響を与える力がある放射性物質なのです。そのため、原子力発電には、放射線によるさまざまなリスクを伴います。

 

原子力発電で放出される放射線

前述のように、原子核の分裂反応を起こすと、中性子が放出されます。このような中性子は、高速で原子核を飛び出ます。つまり、核分裂反応では、放射線の1つである「中性子線」が放出されるということです。

中性子線は、物質を通り抜けやすく、水素とぶつかると止まりやすいという性質を持ちます。そのため、身体の約7割が水で構成されている人体は、中性子線の影響を強く受けます。

さらに、中性子線がぶつかった原子は、余計な中性子を抱えることになるため不安定な状態となります。すると、このような物質は「余計なもの=放射線」を出して安定しようとします。

このとき、放出される放射線の種類は、原子の種類によって異なります。そのため、人体が中性子線を浴びると、身体の内側からアルファ線やガンマ線などさまざまな種類における放射線の影響を受けることになります。

また、原子力発電ではウランやプルトニウムなどの放射性物質が燃料となります。これらは、そのままの状態でも核分裂を起こして放射線を放出し、異なる物質へと変化していきます。

ただ、これらの半減期は数万年~数億年であり、人間の寿命に比べると遥かに長いです。そのため、通常の状態では、少量のウランやプルトニウムなどが出す放射線の人体への影響はそう大きくありません。

さらに、これらが放出する放射線はα線です。そのため、内部に取り込んだ場合を除いて、ウランやプルトニウムによる人体への影響は少ないといえます。

ただ、前述のように、原子力発電は核分裂反応の連鎖を人為的に起こして発電します。そのため、原子炉には大量のウランやプルトニウムが存在しているため、その分だけ多くの放射線が周辺に出ています。

また、ウランやプルトニウムなどが核分裂すると、これら核燃料よりも半減期が短い放射性物質や、ガンマ線などアルファ線以外の放射線を出す物質が生成されます。

前述のように、半減期が短い放射性物質は、その分だけ一度に出す放射線が多いです。また、ガンマ線はアルファ線よりも電離作用が弱い一方、透過性が高いです。そのため、長時間これらを浴びると、皮膚を通り抜けて体内の細胞に悪影響を及ぼします。

このように、原子力発電所では、さまざまな種類の放射線が大量に出ています。そのため、原子炉には、これら放射線や放射性物質などを閉じ込めるためのさまざまな工夫が施されています。このようなことから、安定して稼動している原子力発電所における周辺地域への放射線の影響はほとんどありません。

原発事故で起こる悪影響

原子力発電のメカニズムは、原子爆弾を応用したものです。そのため、これらは同じ原理でエネルギーを生み出します。ただ、原子爆弾に利用する燃料の濃度はほぼ100%であるのに対して、原子炉の燃料は3~5%程度です。このようなことから、原子力発電所で原子爆発が起こることはありえないとされています。

ただ、前述のように、原子炉内では大量の放射線が生じています。そして、原子力発電所が安全だとされているのは、このような放射線や放射性物質を内側に閉じ込めているためです。そのため、閉じ込めている壁が何らかの理由によって壊れると、人体に毒性のあるものが外へと漏れ出すことになります。

また、原子炉の運転や核燃料の加工などに携わっている人は、強力な放射線を浴びるリスクが高いです。というのも、前述のように、核燃料そのものが放出する放射線は人体への影響が低いです。

ただ、何らかの理由によって核燃料の分裂反応が始まると、大量の放射線を出し始めます。そのため、これらの施設に従事する人は、事故などによって放射線の悪影響を受けやすいのです。

実際に、原子力発電所ではこのような事故が起こっています。以下に、具体的な事故について述べていきます。

福島第一原発事故

2011年に、東日本大震災によって福島第一原発が事故を起こしました。前述のように、この事故が起こるまでは、日本の原発には多くの安全設備が設けられているため事故が起こらないとされていました。

実際に、地震発生直後にはこのような安全設備が稼動して原子炉が自動で停止しました。また、地震によって停電が発生しましたが、非常用発電機が起動して原子炉への電力供給が行われて燃料の冷却が開始されました。

というのも、原子炉が稼動を停止しても、核燃料はしばらく熱を発し続けます。この状態を放置すると、燃料を包んでいる金属管や格納している容器などが高熱で溶け、放射性物質が外へと漏れ出します。そのため、原子炉を停止させた後、一定時間は燃料を冷やす必要があります。

ただ、地震の後に発生した津波によって、非常用発電機や非常用バッテリーなどが浸水して故障しました。これによって、福島第一原発はどこからも電力が供給されない「全電源喪失状態」となりました。

そして、福島第一原発の非常用炉心冷却装置は、すべての電源を失ったことによって動かなくなりました。すると、核燃料の温度が上がり続けて溶け始めました。これを「炉心融解」といいます。

このようにして溶けた燃料は、原子炉を格納している容器に穴を開けて外に漏れ出しました。これにより、周辺の地域や海などに大量の放射性物質が漏出しました。

また、核燃料が過度に熱せられたことにより、核燃料を包む金属管が化学反応を起こして大量の水素ガスが発生しました。水素には、酸素と触れると爆発を起こすという性質があります。

そのため、水素ガスで充満した福島第一原発の原子炉は、屋内の酸素と反応して水素爆発を起こしました。これによって原子力発電所の建屋が破壊され、原子炉内の放射性物質が屋外へばらまかれることとなりました。

このように、福島第一原発は、周辺地域一帯に多くの放射性物質を放出するという甚大な事故を引き起こしました。そのため、この事故の「国際原子力事象評価尺度」は、最大の「レベル7」となっています。

国際原子力事象評価尺度とは、原子力事故の大きさを表す国際的な基準のことです。つまり、福島第一原発の事故は、世界的に「最悪の事故」とされているのです。また、1986年に起こったチェルノブイリの原発事故も同等の評価となっています。

チェルノブイリ原発事故

チェルノブイリ原発は、「黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉」というタイプの原子炉を使用していました。これは、減速材に黒鉛を使用し、冷却材に水を使用した原子炉です。

減速材とは、核分裂によって飛び出る中性子の速度を、連鎖を起こすのに最適なスピードに調整する働きを担う素材のことです。また、冷却水は、核分裂によって生じた熱を運び、タービンを回して発電を行う働きがあります。つまり、チェルノブイリ事故を起こした原子炉は、核燃料によって水を熱して発電を行っていました。

チェルノブイリ原発事故発生時、原子炉ではタービンの回転による電力供給の実験を行っていました。具体的には、「タービンの惰性回転のみでどれだけの電力を原子炉に供給できるか」を試そうとしていました。

このような実験を行うために、原子炉に冷却水を送るポンプの電源を、タービンに接続されている発電機からつなぎました。また、タービンに新たな回転力を加えないように、タービンへの蒸気を遮断した状態にしました。さらに、非常用炉心冷却装置が作動することによって実験が中断されないように、このような装置が動かない状態で実験が行われました。

そして、このような実験を行うために、原子炉の出力を落としそうとしました。ただ、このとき、必要以上に出力が下がってしまったため、出力を上げようとしてほとんどの制御棒を引き抜いてしまいました。

しかしながら、このとき冷却水を送るポンプはタービンによる電力で動いています。そのため、タービンに蒸気による力が加わらないと、炉心に送られる冷却水の量が低下します。そのため、原子炉内の冷却水はどんどん減っていき、炉心の温度が上がっていきました。そして、水が過剰に熱せられて蒸気が大量に発生しました。

このような実験を行っていた黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉には、蒸気が増えるほど核分裂反応が起こりやすくなるという性質があります。特に、この特性は低出力で運転している際に表面化しやすくなります。そのため、大量に蒸気が発生したこの原子炉では、出力が急に上昇しました。

このような出力の急上昇を抑えるために、自動制御棒や緊急停止用制御棒などが挿入されました。ただ、緊急停止用制御棒には冷却水を排除する働きがあったため、挿入から数秒は反応を促進する作用がありました。

これによって、原子炉の出力はさらに上昇し、燃料や冷却水などを含む管は大量の蒸気によって満たされました。これによって、蒸気の圧力が高くなったことによって冷却水が圧力管の中に入ることができなくなり、炉心の温度はどんどん上がっていきました。

そして、蒸気の圧力に耐えきれなくなった圧力管が破損し、冷却水と高温となった黒鉛と触れました。これによって、冷却水が一気に蒸気となって「水蒸気爆発」が起こり、建屋を壊して周辺に放射性物質をばらまきました。

このように、チェルノブイリ原発事故は、さまざまな要因が複合的に重なって起こりました。そして、原子炉における安全設計の欠陥や、マニュアルの遵守が徹底されていなかったことなどが事故の主な原因とされています。そのため、チェルノブイリ事故以降、この型における原子炉の新設は行われおりません。

東海村臨界事故

1999年、東海村臨界事故によって日本で初めて原子力事故による死者が出ました。この事故は、核燃料を作っている「JCO」という会社の工場で発生しました。普段、この会社は軽水炉用の燃料を作成していました。ただ、事故が起こったのは、「転換試験棟」と呼ばれる「高速増殖炉」で使用される燃料を作る工場でした。

この原子炉で燃やす燃料は、軽水炉のものに比べてウランの濃縮度が高いです。具体的には、軽水炉で使用する燃料におけるウランの濃縮度は3~4%であるのに対して、高速増殖炉用のものは18.8%です。つまり、転換試験棟では、通常よりも核分裂しやすい燃料を作っていたのです。

そのため、このような燃料を作るための容器や手順などには、事故を起こさないための工夫が施されていました。ただ、事故を起こした作業員は、マニュアルにはない道具を使用したり、異なる手順で作業を行ったりしていました。

そして、核燃料となるウランを含む液体を別の容器へ移し替えしたとき、容器の中で核分裂の連鎖反応が起こりました。これは、移し替えた先の容器が原子炉と似た環境になっていたためです。

また、前述のように、原子炉には放射線や放射性物質などが外に漏れ出さないための壁がいくつも存在しています。これに対して、核燃料を作っていた容器はむき出しの状態です。そのため、核燃料を制作していた作業員は、核分裂によって生じた中性子線やガンマ線などの放射線を無防備な状態で大量に浴びました。

そして、このようにして被曝した3人の作業員のうち、被曝線量の多かった2名が数ヶ月後に亡くなりました。このように被曝から亡くなるまでの期間が長いのは、放射線が細胞内の染色体を壊したからとされています。

というのも、人体における多くの細胞は、一定期間で新しいものに入れ替わります。このとき、新しい細胞は細胞分裂によって供給されます。ただ、このような分裂を行うためには、設計図である「染色体」が必要です。そのため、放射線によって染色体が破壊された細胞は、分裂することができなくなります。

このようにして細胞が分裂する能力を失うと、新しい細胞が作られなくなります。そのため、この状態で細胞が寿命を迎えると、これらの細胞が形成している組織が維持されなくなります。例えば、腕や足などが被曝してこれら組織の細胞が分裂能力を失うと、皮膚がすべて垢となって剥がれ落ち、内側の肉がむき出しの状態となります。

一方で、神経細胞や心筋細胞など生命を維持するための特殊な働きを担っている細胞は、細胞分裂によって新しく作られることがなく、寿命を終えるまで働き続けます。そのため、これら細胞は放射線による影響を受けにくいです。

このようなことから、東海村臨界事故で被曝した作業員は、神経細胞が生き続けることによって意識があり、痛みを感じることができました。それにもかかわらず、皮膚や消化器官などの組織は、時間の経過とともに壊れていったため、通常では起こり得ないほどの激痛が発生しました。実際にこの作業員は、このような激痛を「生き地獄」と表現したといわれています。

また、前述のように、転換試験棟には放射線や放射性物質を閉じ込める設備が備えられていませんでした。そのため、この事故では、作業員だけではなく周辺地域の住民も被曝しています。

地域住民の被曝線量は、ただちに命に関わるものではありません。ただ、放射線による影響は、被曝から長い期間を経て表面化してくることが多いです。そのため、事故後に症状が出てないからといって身体に問題がないとは言い切れません。

そして、このような事故を起こしたウラン燃料は、わずか1mgでした。これに対して、大規模な原子力発電所では、1日に約2~3kgのウランが核分裂しています。つまり、原子炉内には、人体に前述のような症状を起こすだけの放射線が大量に飛び交っているということです。

これまでに述べたように、原子力発電所には放射線を外に漏らさないようにたくさんの壁が存在しています。ただ、原子炉が稼動している状態でテロなどによって壁が破壊されると、原子炉内の放射線や放射性物質などが飛び出す危険性があります。つまり、原子力発電所の近くに住む住民が東海村臨界事故のような被害を受ける可能性があるということです。

原子炉稼動の危険性

これまでに述べたように、原子力を扱う事業所や原子炉などが事故を起こすと、周辺地域が汚染されたり住民が被爆したりする可能性があります。ただ、原子力発電所を稼動すると、事故が起こらなくてもこのようなことが起こるリスクがあります。

というのも、原子炉で核燃料を燃やすと、「使用済み核燃料」となります。そして、これは再加工されて「MOX燃料」と呼ばれるプルトニウムを含んだ核燃料となり、軽水炉で使用されます。

ただ、日本の軽水炉は、もともとウラン燃料を燃やすために設計されています。そのため、MOX燃料の利用などの、設計当時に想定されていなかったような使い方をすると、事故が起こる危険性があるといわれています。

また、使用済み核燃料を再度燃やすと、薪などを燃やしたときの「灰」に相当する「核燃料のゴミ」が発生します。このようなゴミは「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれ、使用済み核燃料よりも強力な放射性物質を含んでいます。そのため、MOX燃料を燃やす原子炉が事故を起こすと、ウラン燃料を使用している原子炉よりも甚大な事故が起こりやすいといわれています。

さらに、高レベル放射性廃棄物は、数万~数億年に渡って放射線を出し続けます。そして、このようなゴミの処分地はまだ決まっていません。これは、放射性物質に汚染されることを恐れる地域住民が反対しているためです。

このようなことから、原子力発電所が稼働すると、事故によるものだけではなく「核のゴミ」による汚染リスクも発生するといえます。そして、このようなリスクは、革新的な技術が開発されない限り、なくなることがありません。そのため、原子炉が稼働すると、必ずどこかしらの地域が放射能に汚染されるリスクを抱えることになります。

原子力発電の是非

これまでに述べたように、原子力発電にはさまざまな危険性が存在しています。そのため、原子力発電の根絶を求める声が増えてきています。ただ、原子力発電の廃止にも、多くのリスクを伴います。

というのも、前述のように、使用済み核燃料はMOX燃料として再利用することができます。そのため、地域電力各社は、使用済み核燃料を「会社の資産」として計上しており、その額は数千億円から数兆円にのぼります。

このような状況下で原子力発電の廃止が決まると、電力会社が所持するこれらの資産はすべて「ゴミ」となります。つまり、原子力発電の廃止が決まると同時に、電力各社は多額の資産を失うことになるのです。

すると、会社の経営状況が悪化するため、消費者にさまざまな悪影響があります。例えば、地域電力会社は安定した電力供給を行うための重要な役割を担っています。そのため、これら会社の経営状況が悪くなると、国民が安定した電力を使用できなくなる可能性があります。また、経営悪化が深刻になって倒産に至ると、より電力供給が不安定になるだけではなく、日本全体に経済的なショックを与えます。

このようなことから、電力各社は原子力発電を推進せざるを得ない立場となっています。そのため、原子力発電の廃止による影響を防ぐためには、政府が介入して方針を変更したり税金を投入したりする必要があります。ただ、税金は無限ではありません。そのため、このようなことに税金が使われると、他の分野で使用される税金が減ったり日本の借金が増えたりすることになります。

このように、原子力発電は、稼働しても廃止となっても消費者に影響があります。そのため、これまでに述べたようなことを踏まえて、私たち一人ひとりが冷静に原子力発電の今後を考える必要があります。