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2011年3月、東日本大震災によって甚大な原発事故が発生しました。これによって、消費者の多くが「原子力発電は危険なものである」という認識を持つようになりました。このようなこともあり、国内におけるすべての原子力発電所は、一時的に稼動を停止しました。

このような事故が発生する前までは、安価な電力を安定して作り出すことができる点や二酸化炭素など温室効果ガスの排出を伴わない点などから、政府は原子力発電の普及を促進してきていました。

また、「日本の原子力技術は高く、原発が甚大な事故を起こすことはない」とされてきたため、原子力発電所の問題性が世間に注目されることは多くありませんでした。

ただ、前述のように、実際に大きな事故が起こったことによって、日本における原発の安全神話は崩壊しました。

そこで、ここでは原子力発電の安全設備について述べていきます。

原子力発電とは

火力発電や水力発電などは、「火の力」や「水の力」を利用して電気を作る発電方法です。これと同様に、原子力発電は「原子の力」によって発電を行います。

原子とは、世の中にある全ての物質を構成している粒子のことをいいます。例えば、鉛筆の芯やダイヤモンドなどは、「炭素」という原子の集合体です。また、人間の体は、炭素や水素、窒素などのさまざまな原子が集まることによって成り立っています。

このような原子は、莫大なエネルギーを秘めています。ただ、このようなエネルギーを利用するためには高度な技術が必要であり、人間が使用できるのはごく一部です。そのため、原子力発電は他の発電方法に比べて仕組みが複雑であり、利用されるようになったのは比較的最近です。

また原子力は、火力や水力などに比べて産生するエネルギー量が多いです。例えば、原子力発電に利用される原子の1gが生み出すエネルギー量は、石炭3t分や石油2000l分に相当します。そのため、原子力で生み出した電力は、他の発電方法に比べて価格が安くなりやすいです。

さらに、原子力発電は、少量の燃料で発電を行えるだけのエネルギーを得られるため、化石燃料を利用する手法である火力発電よりも資源枯渇の心配が少ないという利点もあります。

また、火力発電は、稼動の際に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出します。これに対して、原子力発電を稼動してもこれらのガスは発生しません。そのため、原子力発電は、電力の安定供給や地球温暖化対策のために長い期間において推奨されてきました。

原子力発電の仕組み

前述のように、「原子力」とは原子がもつ力のことをいいます。ただ、このような力のすべてを発電に利用できるわけではありません。というのも、一般的に使用される原子エネルギーは、「原子が分裂して異なる2つの原子になるときに発生する熱」です。そして、人間の手に分裂させられる原子は限られています。

原子は、「原子核」と「中性子」、「電子」で構成されています。このような原子核に特定の条件で中性子がぶつかると、原子核が2つに分裂して「元とは異なる2つの原子」が生成されます。また、このとき、大量の熱やいくつかの中性子なども放出されます。

そして、放出された中性子が原子核に当たると、原子核の分裂反応が起こります。原子力発電は、このような反応の連鎖を起こし、継続的に熱を発生させて発電を行っています。

ただ、このような分裂反応は、原子によって起こりやすさが異なります。そのため、原子力で発電を行うためには、「ウラン」や「プルトニウム」などの分裂反応が起こりやすい性質を持つ原子を利用する必要があります。

さらに、このような原子の中にも、持っている中性子の数によって分裂反応の起こりやすさに差があります。例えば、中性子を143個持っている「ウラン235」は核分裂が起こりやすいため、前述のようにして原子力発電に利用されます。一方で、所持している中性子の数が146個である「ウラン238」は分裂性に優れず、このままでは原子力発電に利用しづらいといった特徴があります。

ただ、自然界に存在しているウランのほとんどは、「ウラン238」です。そのため、原子力発電で利用されるウラン燃料は、ウラン235の比率を高めた「濃縮ウラン」になっています。

そして、濃縮ウランを作った結果生じるウラン235の比率が低くなったウランを「劣化ウラン」といいます。このようにして生じた劣化ウランは、工場で「プルトニウム」に加工されて原子炉の燃料となります。

原子力発電所の構造

前述のように、原子力発電では、分裂反応によって生じた中性子で分裂の連鎖を起こして発電を行います。ただ、このような分裂反応の際、中性子は高速で飛び出ます。

そして、中性子の速度が速いと、原子核が中性子を吸収せず分裂の連鎖が起こりません。そのため、一般的な原子力発電では、飛び出た中性子の速度を調整するために「減速材」を利用します。日本で稼動しているすべての原子炉は、このような減速材に水を利用する「軽水炉」です。

そのため、日本の原子炉では、「原子炉圧力容器」の中でウランなどの燃料が大量の水に浸かっています。こうすることによって、水が中性子の速度を下げて分裂反応の連鎖が起こるようになります。

また、水は「冷却材」の役割も果たしています。圧力容器内の水は、分裂反応によって生じた熱を受け取り、燃料を冷やします。そして、熱せられた水は蒸気になったり、蒸気発生器内の水を熱して蒸気を発生させたりします。

このようにして発生した蒸気は、パイプを通ってタービンを回します。そして、仕事を終えた蒸気は、パイプ越しに海水によって冷やされて液体に戻り、圧力容器や蒸気発生器などの中に帰ります。このように、冷却材は、燃料の温度を下げるとともに、炉内で熱の受け渡しをして発電を行う役割を担っています。

また、燃料は棒状になっており、「制御棒」と交互に並んでいます。制御棒は、「中性子を吸収しやすく核分裂を起こさない素材」でできています。そのため、制御棒を燃料の間に深く差し込むと、中性子が制御棒に吸収されて燃料の原子核に届かなくなるため、核分裂反応の連鎖が起こらなくなります。原子力発電では、このようにして制御棒を抜き差しすることで分裂反応の制御を行い、出力を調整しています。

原子力発電の安全装置

原子力発電の仕組みは、もともと原子爆弾を作る技術を応用したものです。そのため、欧米などでは、第二次世界大戦終戦後に原子力発電の研究・導入が進められてきました。

ただ、1979年のスリーマイル島や1986年のチェルノブイリなどで起こった原発事故をきっかけに、原子力発電は世界的に後退していきました。そして、2000年台に地球温暖化が問題視されると、再び原子力発電が脚光を浴び始めました。

このような中、日本は原子力発電の研究や建設を続けていました。そのため、2010年段階では、日本における原子力発電の技術は世界最高レベルだといわれていました。また、日本国内でも、原子力発電は安全・安価でクリーンな発電方法だとされていました。このような「安全」を保証していたのが、「5つの壁」です。

5つの壁とは

原子力発電所でもっとも重大な事故は、「放射性物質が外に漏れ出すこと」とされています。というのも、前述のように、原子力発電は核の分裂反応によって生じる熱を利用します。ただ、このとき、人体に悪影響を与える「放射線」を放出する物質である「放射性物質」がゴミとして生じます。

放射性物質が原子炉外に出ると、一帯の地域が放射線を浴びることになります。すると、周辺における動植物の細胞が壊れて、死んでしまったりがん細胞化したりします。そのため、このような事態を避けるために、原子炉を稼動するためにはどのような場合においても放射性物質が漏れないように設計する必要があります。

また、原子力発電の燃料は、ウラン235の濃度を高めた「濃縮ウラン」を使用しています。ただ、濃縮ウランを占めるウラン235の割合は3~5%であり、大部分はウラン238です。そのため、原子炉では、反応したウラン235が放出した中性子の多くはウラン238が吸収するため、分裂反応はゆっくりと進んでいきます。

これに対して原子爆弾は、ウラン235の濃度がほぼ100%です。そのため、原子爆弾の燃料が核分裂すると、分裂反応がネズミ算式に起こります。すると、膨大なエネルギーが一気に放出されるため、爆発が起こります。

このように、原子力発電は、原子爆弾に比べて使用する燃料におけるウラン235の濃度が大きく違います。このように、原子力発電所では原子爆発が起こらないため、地域電力各社は、放射性物質の漏洩が「起こりうる最大の事故である」としています。

そして、日本の原発では、「5つの壁」が放射性物質を内側に閉じ込めているため、放射性物質の漏洩が起こることはないといわれていました。

原子炉で使用されるウラン燃料は、陶器のような硬さに焼き固められて1cm×1cmの「ペレット」となっています。このようなペレットは、約2700℃までの高温に耐え、核分裂によって生じる放射性物質を閉じ込めることができます。これが、第一の壁です。

また、これらのペレットは、「ジルコニウム合金で作られた管(被覆管)」の中に入れられています。このようなジルコニウム合金には放射性物質を閉じ込める働きがあり、熱に強く中性子を吸収しないという特徴があります。そのため、核分裂によって生じた放射性物質がペレットから漏れても、被覆管の外には出ないとされています。これが、第二の壁です。

さらに、ペレットが入ったジルコニウム合金の棒は、約20cmの鋼鉄で構成される「原子炉圧力容器」の中に収められています。また、原子炉圧力容器は約4cmの鋼鉄でできた「原子炉格納容器」に収納されています。そのため、燃料の棒から放射性物質が漏れても、このような厚い鋼鉄が外部への漏出を防ぐといわれています。これらは、それぞれ第三、第四の壁とされています。

そして、原子炉を収める建物は、厚さ約1mの「鉄筋コンクリート」で構成されています。これが、5つ目であり最後の壁です。そしてこのような5つの壁は、原子力発電所を安全に運行するための「3ステップ」のうち、「閉じ込める」に相当しています。

原子炉における安全状態への3ステップ

前述のように、原子力発電所でもっとも懸念される事故は、放射性物質の漏出です。そのため、このような事故を起こさないために、稼動している原子炉は段階的に「冷温停止状態」へと導かれます。

冷温停止状態とは、原子炉内の燃料が確実に核分裂を起こさないほどの低温になっていることであり、原子炉が停止した状態です。このような状態になると、故意に分裂反応を起こさせない限り原子炉が稼動し始めることがありません。そのため、冷温停止状態は、原子炉が「安全な状態である」と言い換えることができます。

稼動している原子炉は、「止める・冷やす・閉じ込める」の3ステップで冷温停止状態になります。以下に、それぞれの段階について述べていきます。

「止める」

前述のように、原子炉が稼動していると、核分裂反応の連鎖によって大量の熱が発せられ続けます。そのため、原子炉を低温にするためには、まず原子炉を「止める」必要があります。これが、原子炉を冷温停止状態にするための1段階目です。

原子炉を止めるためには、制御棒を深く差し込んで核分裂が起きないようにする必要があります。このような作業は、人の手によって行うことができるだけではなく、緊急時に自動で作動する仕組みになっています。

また、このような緊急停止のメカニズムは、原子炉に電力が供給されない状態でも働きます。そのため、何らかの理由によって周辺地域が停電になっても、緊急停止動作に影響はありません。

さらに、緊急停止の仕組みは2~3重になっています。そのため、最初の緊急停止動作が働かなくても、次の仕組みが作動して原子炉が止まります。

このような緊急停止は、一定以上の地震を検知したときや原子炉内の温度や圧力が高くなったときなどに作動します。そのため、人の手が及ばないような異常事態であっても、原子炉が自動的に停止する仕組みになっています。

「冷やす」

前述のように、制御棒が差し込まれると核分裂は止まります。ただ、このように分裂反応を強制的に止めると、原子核が崩壊を起こし始めます。

このような崩壊現象は、原子核が不安定な状態なときに起こります。前述のように、原子は電子や陽子、中性子などによって構成されています。そして、通常はこれらのバランスが整った状態で存在しています。

ただ、原子炉内で核分裂を起こしていた燃料は、このようなバランスが取れていない状態です。そのため、人為的に核分裂の連鎖を止めると、燃料内の原子が不安定な状態となります。

このような不安定な原子は、安定した状態になるために、大量の熱とともに不要な電子や陽子、中性子などを放出します。このように放出される熱を「崩壊熱」といいます。

原子炉内における崩壊熱は、稼働時の約7%の熱量を持ちます。そのため、制御棒を差し込んで原子炉を停止させても、燃料は高温の熱を発し続けます。

そして、この状態を放置すると、燃料を包んでいる金属や原子炉の容器などが高温によって溶けて、放射性物質を含んだ燃料が外へ漏れ出ます。このようにして溶け出した核燃料が圧力容器の底に貯まった状態を「メルトダウン」といい、圧力容器を溶かして漏れ出すことを「メルトスルー」といいます。

このようなことから、原子炉を冷温停止状態にするためには、原子炉を止めた後にしっかりと冷やす必要があります。

原子炉を冷やすための装置は、いくつかの種類があります。前述したような「燃料から熱をもらって発電する水(冷却材)」もこのような冷却装置の1つです。そして、通常の冷却システムが動かなくなったときの役目を担うものを「非常用炉心冷却装置(ECCS)」といいます。

非常用炉心冷却装置には、格納容器を囲むように取り付けられている水管から水を出して格納容器を冷やす「格納容器スプレー装置」や、圧力容器内の水が減ると自動的に放水して燃料を冷やす「非常用炉心冷却装置」などがあります。

これらの非常用炉心冷却装置には、自動で作動するものと電力によって作動するものがあります。そして、地震などによって電力会社からの送電が行われなくなったときには、備え付けられている非常用発電機による電力でこれらの冷却装置が動きます。

このように、原子炉には多くの冷却装置が取り付けられています。そして、これらが正常に働くと、稼働中の原子炉を安全に冷温停止状態にすることができます。そして、前述した5つの壁が放射性物質をしっかり「閉じ込める」ため、日本では放射性物質が漏れるような事故は起こらないとされていました。ただ、多くの人が知るように、2011年の東日本大震災によってこのような重大事故は起こってしまいました。

福島第一原発の事故

前述のように、原子力発電所には、放射性物質が漏れることを防ぐためのいくつもの安全装置が備え付けられています。福島第一原発にもこれらの装置が取り付けられていました。それにもかかわらず、放射性物質の漏出事故は発生してしまいました。

東日本大震災における1度目の地震では、地震を感知した原子炉が自動で停止しました。つまり、1段階目の「止める」ことには成功していたということです。

そして、地震によって停電が発生しましたが、非常用の発電機が起動して冷却装置の稼動が始まりました。ただ、地震から約50分後に起こった津波によって、これら発電機などの電気設備が故障しました。これによって、福島第一原発は「全電源喪失」という「どこからも電気が供給されない状態」になりました。

前述のように、原子炉を冷やす装置には自動で動くものと電力で動くものがあります。ただ、自動で起動するタイプの冷却機能は一時的であり、電力による冷却が始まるまでの時間を稼ぐためのものです。そのため、電力による冷却装置が稼動しないと、原子炉内の温度は上がり続けます。

そして、津波によって全電源を失った福島第一原発は、電力によって動く非常用炉心冷却装置を稼働させることができなくなったため原子炉を冷やすことができなくなりました。つまり、前述の3ステップのうち、2段階目の「冷やす」ことができなくなったのです。

そして、温度が上がり続けた炉心では、燃料棒が溶けてメルトダウンが起き、メルトスルーにまで至りました。さらに、このようなメルトダウンの影響によって、原子炉に大量の水素が発生しました。これによって、原子炉は水素によるガス爆発を起こし、放射性物質を周囲にばらまくことになりました。

そして、これらの事故により、原子炉のさまざまな設備が破損しました。そして、施設の穴や亀裂などから放射性物質を含んだ水や蒸気が漏れ出し、放射能汚染が土壌や地下水などまで広がっていきました。つまり、放射性物質を閉じ込める「5つの壁」が破られたのです。

これまでに述べたように、原子力発電所にはさまざまな安全装置が備えられています。そして、2011年の原発事故が起こるまで、このような装置は「完璧なもの」とされていました。

ただ、実際に事故が発生したことが示しているように、安全対策に「完璧」はありません。今まで起こらなかったことがこれからも起こらないとは限らず、「想定外の事態」はいつでも発生しうるのです。

前述のように、原子力発電にはさまざまなメリットがある一方で、事故による放射能汚染リスクを伴います。そして、2016年の電力自由化によって誰でも自由に電力会社を選べるようになりました。そのため、電気を使う消費者一人ひとりが、原子力発電の今後について真剣に考え、冷静な判断を行っていく必要があります。