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2016年4月から、「電力自由化」が始まりました。電力自由化が開始される前であれば、一般市民は決められた会社から電力を購入しなければなりませんでしたが、これによって自由に電力会社を選べるようになったのです。

一般的に、電力自由化によって電気料金は下がるといわれています。実際には、家族状況や使用量、料金プランによって差があります。ただ、多くの世帯では電気料金が下がると見込まれています。

そこで、ここでは電力自由化によって電気料金が下がるといわれている理由について解説していきます。

大手電力会社の利益の出し方:総括原価方式とは

一般的な企業の場合、売上金額から必要経費などを除いた額が利益となります。つまり、人件費などのコストが上がるほど、利益が少なくなっていきます。

例えば、1個1万円の商品を売ったとき、仕入れや人件費などの経費に7000円かかると残り3000円が利益となります。そして、仕入額が高騰したり人件費が上がったりなどで経費が8000円になると、利益は2000円に減ります。

一方で、東京電力などの大手電力会社では「総括原価方式」という料金設定方法が行われています。これは、利益を先に決定して、経費などに利益を上乗せしたものが設定料金となる方式です。

例えば、まず商品1個につき3000円の利益を設定します。この商品を1個売るときにかかるコストが7000円だとすると、商品は「3000円(利益)+7000円(経費)=1万円」で販売されることになります。そして、必要経費が高騰して8000円になると、商品は「3000円(利益)+8000円(経費)=1万1000円」に値上がりします。

このように総括原価方式では、原価高騰などによって必要経費が値上がりしても利益が確保されます。そのため、企業がコストダウンを行う必要性が低く、電気料金が下がりにくいという特徴があります。

総括原価方式のメリット・デメリット

総括原価方式が採用されているのは電気料金だけではありません。ほかにも、ガス料金や水道料金などの公共事業料金に採用されています。これは、総括原価方式を採用することによって、電気やガスなどの供給が安定して行いやすいためです。

例えば、これらを供給する会社が利益を得られずに倒産してしまうと、電気やガスなどの供給が止まってしまいます。すると、一般市民の生活に支障が出るとともにさまざまな企業の活動がストップしてしまうため、多大な経済的損失が発生します。

一方で、総括原価方式を採用すると、ある一定の利益が確保されているため倒産の危険性が少なくなります。また、設備投資や修繕などにお金をかけやすいため、電気などの供給が安定します。

また、総括原価方式では、利益額は「固定資産(建物や土地など、事業をするために長期にわたって保有する資産)×報酬率(約3%程度)」という計算式で決定されます。報酬率は会社や年によって変動しますが、求め方自体は変わりません。つまり、電力会社が自由に利益を決めているわけではないのです。

もし、電力自由化以前のように、電力会社が選べない状況において会社が好き勝手に電気料金を設定できると、法外な価格に設定して会社側が過剰に儲けることができてしまいます。総括原価方式は、このような自体を防ぐ役割も担っていたのです。

総括原価方式による経営が始まった当初は、インフラ整備が整っていない時代でした。そのため、総括原価方式で利益を確保することによって、設備などを充実させることができたため現在の電力安定供給に至っています。

ただ、現在では電力を安定的に供給するための設備がある程度整っており、総括原価方式による社会的なメリットは少なくなってきています。

それに対して、総括原価方式は企業が努力する必要性が低いというデメリットがあります。そのため、価格や経営に無駄が生じやすく、これらが適正化しにくかったのです。

電力自由化による価格の適正化

電力自由化が行われると一般市民が電力を買う会社を選べるようになるため、企業同士の価格競争が始まります。すると、総括原価方式を採用していた電力会社も、コストダウンして電気料金を下げる努力を行わざるをえない状況になります。

また、電力自由化によって、電力会社の総括原価方式を撤廃するという動きも出てきています。総括原価方式を撤廃すると、企業の努力が利益に直結するため、価格が下がって経営が適正化するといわれています。

このように、電力自由化が行われると、企業努力が行われるようになって価格や運営の無駄が減ります。そのため、電力自由化が行われると電気料金が下がるといわれているのです。

電力自由化で必ずしも電気料金が安くなるとはいえない理由

それでは、実際のところ電気料金は安くなるのでしょうか。

一般的には、電力自由化によって電気料金が下がるといわれています。これは、電力自由化でさまざまな電力会社が参入することによって価格競争が起こるためです。

実際、新しく参入した電力会社の料金プランは、電力自由化以前の料金に比べて割安であることが多いです。そのため、一時的にはほとんどの世帯で電気料金が安くなると考えられます。ただ、長期的に見ると、全世帯で安い電気料金が継続されるとは言い切れないのです。

国による電気料金に関する規制の廃止

前述のように、電力自由化によって価格競争が起こると電気料金は下がります。ただ、災害や燃料費の高騰などが起こると、国による料金審査がないため、電力各社が電気料金を値上げする可能性があります。

例えば、日本は電力を作る際の燃料を国内ではまかないきれません。そのため、発電するための燃料確保を輸入に頼っています。

ただ、東南アジアなどの発展途上国のエネルギー使用量は年々増加しており、燃料の需要が高まってきています。物品の価格は、欲しい人が多いほど価格が上がります。つまり、途上国の発展によって燃料の需要が高まると、燃料の仕入れ価格上昇が反映されて電気料金が高くなる可能性があるのです。

世帯間の格差が生まれる

電力自由化によって、電力会社による価格競争が生まれました。ただ、このような競争が加速すると、会社は利益の確保を重視するようになってきます。

すると、より利益を得られるような顧客をターゲットにするようになり、これらの人が得をするプランを打ち出すようになります。例えば、大人数の家族や、ずっと家にいることの多いお年寄りなどの電力消費が多い世帯にとって有利な状況になるのです。

一方で、共働きで家にいることが少ない夫婦や単身世帯などは、電力の消費量が少ないため電力会社にとって契約をするメリットが少ないです。そのため、これらの世帯にはお得な料金プランが提示されにくいのです。

地域による電気料金格差

また、地域によって料金に差が出る可能性もあります。人口の多い都市では、世帯が多いことによってある程度の利益が見込めるため、電力会社が新規で参入しやすいです。そのため、都市部では価格競争が起こりやすく、価格が下がりやすいといえます。

一方で、人口の少ない農村や離島などは、世帯数が少ないことに加えて送電などにコストがかかりやすいため、企業が参入するメリットは少ないです。

そのため、このような地域では電力会社が増えないことによって価格競争が起こりづらいため、価格が下がりにくいです。さらに、送電などのコストを上乗せして電気料金が上がる可能性も考えられます。実際に、海外ではこのような事例が起こっています。

このように、価格競争が起こると企業は利益を追求するようになります。そのため、企業に契約のメリットが少ないと判断された世帯は、そうでない世帯に比べて損をする可能性があるのです。

電力自由化による世帯格差:地方における生活の不便

前述の通り、山奥や離島などの人口が少ない地域は、電力自由化によって生活が不便になる危険性があるのです。

それでは、なぜこのようなことが起こるのかについて、「人口の少ない地域」に生じる電力自由化による生活の不便についてより詳しく確認していきます。

電力自由化によって企業の投資が控えめになる

電力自由化以前までは、大手の電力会社が地域独占で電気を販売していました。このときの電気料金は、「総括原価方式」で設定されていました。

総括原価方式では、決められた額の利益を必要経費に上乗せして電気料金が定められます。つまり、地域の電力会社は毎月安定した利益を確保していたのです。このような価格設定は、安定した電力供給を行うために大切な役割を果たしていました。

例えば、地域独占している電力会社が利益をあげられずに経営難に陥ると、電力供給が安定せずに生活や経済が打撃を受ける可能性があります。一方で、総括原価方式による価格設定で利益を確保しておくと、このような経営難による電力供給のストップを回避できます。

また、新しい発電所や電力供給のための設備を作るためにはお金が必要です。毎月の利益が安定すると、このような設備投資が行いやすくなり電力供給が安定します。

一方で、利益不足によって設備投資が行われなくなると、インフラが脆弱になり電力供給が不安定化します。

このように、総括原価方式による価格設定は、電力会社が全国各地に安定した電力供給を行うために役立っていました。特に、昔のようなインフラが整っていない時代は、総括原価方式による利益の確保が必要不可欠だったのです。

人口の少ない地域が不利益を被る理由

ただ、電力自由化によって、前述の通り総括原価方式による価格設定が廃止されることが決まりました。総括原価方式では、新規に参入した電力会社との競争が不可能なためです。

総括原価方式による価格設定がなくなって価格競争が始まると、電力会社は電気料金を下げます。すると、利益額が下がって投資に回せる金額は少なくなります。

さらに、企業同士の競争が生まれると、顧客を得るために必死になります。すると、消費者の多い都市部に投資が集中し、消費者が少なく電力供給にコストがかかる離島や山間部などへの投資が後回しにされることが考えられます。

電力会社の投資が減っても、ただちに電力供給が不安定化することはありません。ただ、他の業界での事例から見ると、将来このような地域の暮らしが不便になる可能性があるのです。

例えば、2007年の郵政民営化によって過疎地の郵便局数は激減し、住民の暮らしに影響が出ています。また、JRなどの鉄道では、人口減少による赤字化で地方の在来線が廃線化され、地方住民の暮らしは不便になりました。

このように、企業同士の競争によって会社が利益を求めるようになると、人口の少ない地方の住民は不利益を被ることが多いです。そのため、このような地域は電力自由化によって不便になるリスクがあるのです。

需要家保護制度とユニバーサルサービス料の徴収

前述のように、電力自由化には過疎地が不便になるリスクを伴います。ただ、送電の停止は生命の危機を招きます。そのため、このようなことを防ぐため「需要家保護制度」が制定されています。

需要家保護制度とは、送電を行っている大手電力会社に、離島などの送電コストが高い地域にも一般的な地域と同程度の価格で安定した電力供給を行うことを課すものです。これによって、過疎地でも電気料金の過度な高騰や電力供給の不安定化が起こらないとされています。

また、このような送電コストが高い地域への安定した電力供給のために、通信事業の「ユニバーサルサービス料」にあたる料金の徴収が始まる予定となっています。

ユニバーサルサービス料とは、通信料や電話料金ごとに徴収されている料金です。これは、山間部や離島などの固定電話の品質安定化や公衆電話、緊急通報などの維持に利用されています。

これと同じように、電気料金のユニバーサルサービス料も地方の品質安定化に利用されます。そのため、ユニバーサルサービス料の開始によって、地域による電力供給の格差を防ぐことができると考えられています。

ただ、前述の郵政や国鉄の民営化によって地方の住民が不便を強いられているように、少数派が損をするのは世の常です。そのため、需要家保護制度があるからといって企業や国を全面的に信用して安心するのは考えものです。

電力自由化によって消費者の選択の幅は広がりました。これは、自分の選択に責任をもつ必要が出てきたということです。そのため、住んでいる地域が損をしたり不便になったりしないために、消費者自身がこれまでに述べたような制度や仕組みに関する知識を身につけて、賢く行動することが大切です。

電気料金を安くするためにできること

これまでに述べたように、電力自由化で電気料金はいったん下がりますが、長期的に見ると損をする世帯が出てくる可能性が高いです。そのため、これらの世帯が電気料金を安くするためには、情報を仕入れて能動的に行動することが大切です。

例えば、人口の少ない地方では、世帯それぞれで契約するよりも集団で契約したほうが電気料金が安くなりやすいといえます。企業にとっては個人よりも大口の顧客の方が魅力的であり、契約するメリットが大きいのです。

そのため、集団で契約することにより、団体向けの電気料金が適用となる可能性があります。

自らの契約プランを見直すべき

また、企業からのアプローチを待たずに行動することも大切です。例えば、シェアの奪い合いを行っている携帯電話各社は、顧客を増やすために既存の契約者よりも新規契約者に割引などを適用して優遇していました。そのため、新規契約者に比べて既存の契約者は損をすることが多かったのです。

ただ、既存の契約者が他社に移ろうとして携帯電話会社に連絡を入れると、料金プランの見直しを提案したり数万円分のポイントを付与したりして引きとめようとするため、結果として携帯電話会社を変えなくても安くなることがあるのです。

このような事実は、消費者にとってはおかしいことのように思えます。ただ実際に、何も行動しない契約者は不利益を被ることが多いです。そのため、損をしないためには、自分の契約しているプランを見直した後、こちらから企業にアプローチすることが大切といえます。

電力自由化で電力会社を選べることは、多くの人にとって喜ばしいことです。ただ、前述のように、何も行動しない人はかえって損をする可能性もあります。

そのため、このような事態を防ぐためにも、これまでに述べたような知識を身につけて消費者自身が企業と賢く付き合っていく必要があるのです。